㍿三成開発 村上事務所

合意形成ってなに?まちを良くするための“みんなで決める”魔法のしくみ

第1章 はじめに。まちづくりは「みんなの想い」で動かすエンジンなんです。

私たちが毎日過ごす「まち」。このまちは、一体どのようにして今の姿になったのでしょうか。そして、これからどんなふうに変わっていくのでしょう。不動産開発や都市計画に携わるあなたは、日々、まちの未来を描き、それを形にするお仕事をされていることと思います。その中で、「もっとこうしたら、この地域に住む人たちにとって、より良い場所になるんじゃないか」と、熱い想いを巡らせることも多いのではないでしょうか。

この章では、そんな「まちづくり」のとても大切なスタートライン、「みんなで話し合って決める」ことの重要性について、一緒に考えていきたいと思います。まるで、大きな船を動かすために、たくさんの人が力を合わせてオールを漕ぐように、まちづくりもみんなの想いというエネルギーで進んでいくのです。


1-1. あなたのまち、どんなふうにできているか知っていますか。道路や公園は、だれが決めているのでしょう。

少し周りを見渡してみてください。そこには、道路があり、建物が並び、公園や広場があるかもしれませんね。これらは、私たちの生活に欠かせないものばかりです。でも、これらのものが「いつ」「どこに」「どのようにして」つくられたのか、考えたことはありますか。

まちの景色をつくっているものたち

道(どうろ)みんなが毎日使っている道ですね。どこに新しい道をつくるか、今ある道をどのくらいの広さにするか、そういったことは、まち全体の交通の流れや安全に大きく関わる、とても大切な計画なんです。例えば、救急車がスムーズに通れるように、とか、子どもたちが安全に学校に通えるように、とか、いろいろなことを考えて決められています。
公園(こうえん)子どもたちが元気に走り回ったり、おじいちゃんおばあちゃんがゆっくりお散歩したり、時にはお祭りの会場になったりもする、みんなの憩いの場所です。どんな遊具を置くか、どれくらいの広さにするか、どんな木を植えるか、それもまちの大事な一部です。
建物(たてもの)私たちが住む家、買い物をするお店、勉強をする学校、病気やケガをしたときに行く病院。これらの建物がどこに、どんな大きさで、どんな目的で建てられるかによって、まちの雰囲気や便利さはがらりと変わります。例えば、「この地域にはお店が少ないから、新しいスーパーマーケットができると便利になるね」といった声が、新しい建物の計画につながることもあります。

これらの計画、実は、あなたのような都市計画の専門家や、行政(市役所や県庁など、まちの運営を担当するところです)の人たちが、いろいろな法律やルールに基づいて考えています。でも、それだけでは十分ではないのです。そこに住む人たちの「こうだったらいいな」という声が、とても大きな力を持っています。


1-2. 「みんなで決める」ということ。どうしてそんなに大切なのでしょうか。「お役所まかせ」では、いけないのでしょうか。

「専門家や役所の人が、法律にもとづいてきちんと計画してくれるなら、それでいいんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。もちろん、専門的な知識や経験は、安全で機能的なまちをつくるために不可欠です。でも、もしも、一部の人だけでまちの未来を決めてしまったら、どうなるでしょう。

もしも、一部の人だけで決めちゃったら、どうなるかな。

想像してみてください。あなたの家の近くにある公園に、新しい遊具をつくることになりました。もしも、役所の人と、ほんの数人の大人だけで「最近の子どもたちは外で遊ばないから、遊具はベンチだけでいいだろう」と決めてしまったらどうでしょう。本当は、キャッチボールができる広場が欲しかった子どもたちや、赤ちゃんを安全に遊ばせられる砂場を望んでいたお母さんたちは、きっとがっかりしてしまいますよね。「私たちの意見も聞いてほしかったな」と感じるはずです。

これは、とても小さな例え話ですが、まち全体の計画になると、もっとたくさんの人の生活に関わってきます。だからこそ、そこに住む人、働く人、学ぶ人、いろいろな立場の人の意見を聞いて、みんなで一緒に考えることが、とても大切になるのです。

だから「みんなで決める」ことが大切なんです。その理由を見てみましょう。

理由その1たくさんの良いアイデアが集まるから。一人では思いつかないような、素晴らしいアイデアが、いろいろな人の意見の中から生まれることがあります。例えば、車椅子を使っている人の意見を聞くことで、誰もが使いやすいスロープのアイデアが生まれたり、子育て中のお母さんの意見で、ベビーカーでも通りやすい広い歩道の大切さに気づいたりするかもしれません。
理由その2「自分たちのまちだ」という愛着や協力する気持ちが育つから。話し合いに参加して、自分の意見が少しでも計画に活かされたと感じられれば、「このまちは自分たちで良くしていくんだ」という気持ちが芽生えます。そうすると、まちのルールを守ったり、地域の活動に積極的に参加したりする人が増えることにもつながります。
理由その3計画がスムーズに進みやすくなるから。最初からみんなで話し合って納得していれば、後から「そんな計画は聞いていない!」といった反対意見が出にくくなり、計画を実行に移しやすくなります。これは、プロジェクトを進める上でとても重要なポイントですね。

まちづくりには、「都市計画法(としけいかくほう)」という大切な法律があります。この法律は、簡単に言うと、「みんなが健康で文化的な生活を送れるように、そして、まちが便利で効率よく機能するように、計画的にまちづくりを進めていきましょう」という目的を持っています(都市計画法 第1条に、この法律の目的が書かれています)。みんなの意見を聞き、それを計画に活かしていくことは、この法律が目指す「より良いまちづくり」を実現するためにも、実はとても理にかなった方法なのです。


1-3. 魔法の言葉「合意形成(ごういけいせい)」について、もっと詳しく見てみましょう。

さて、「みんなで決める」ことの大切さが見えてきたところで、もう一つ、まちづくりでよく使われるキーワードをご紹介します。それが「合意形成」という言葉です。少し難しく聞こえるかもしれませんが、これができるようになると、まちづくりはもっとスムーズに、そしてもっと素晴らしいものになる可能性を秘めているんですよ。

合意形成(ごういけいせい)って、いったい何のことでしょう。

「合意形成」とは、ある計画や決定について、関係するいろいろな立場の人たちが、お互いの意見を出し合い、話し合いを重ねることで、最終的にみんなが「よし、この内容で進めていこう」と納得し、合意(つまり、意見が一致すること)に至るまでの「過程」や「努力」のことを指します。

多数決(たすうけつ)とは、ちょっと目指すところが違うんです。

学校のクラス会などで、「賛成の人は手を挙げてください!」と多数決で物事を決めることがありますね。多数決は、早く結論を出せるというメリットがありますが、選ばれなかった意見を持つ人たちは、少し残念な気持ちになったり、不満が残ったりすることもあるかもしれません。

一方で、合意形成は、時間や手間がかかることもありますが、できるだけ多くの人が「これでよかった」「自分の意見も聞いてもらえた」と感じられるような、より質の高い「納得」を目指します。全員が全く同じ意見になることは難しいかもしれませんが、お互いの立場や考えを理解し合い、尊重し合う中で、「これならみんなにとって一番良い方向だろう」という着地点を見つけていくのです。

どうして「合意形成」という考え方が、こんなに注目されるようになったのでしょう。

少し昔のまちづくりを振り返ってみると、どちらかというと、行政や専門家が中心となって計画を立て、それを住民に説明するというスタイルが主流だった時代もありました。もちろん、その時代にも、より良いまちを目指す熱意はあったはずです。

しかし、時代が進むにつれて、人々の暮らし方や価値観はどんどん多様化してきました。「大きな公園よりも、小さな子どもたちが安全に遊べるポケットパークがたくさん欲しい」「車の便利さも大事だけど、歩いて楽しい道の方が魅力的だ」など、まちに求めるものも一人ひとり違ってきています。

こうした中で、「専門家が決めたから正しい」というだけでは、なかなか住民の理解や共感を得られなくなってきました。「私たちのまちは、私たちの手で、もっと住みやすく、もっと魅力的にしたい」。そんな主体的な想いを持つ人々が増えてきたのです。

このような背景から、計画の初期段階から住民が参加し、多様な意見を出し合い、共に考え、納得のいく結論を導き出す「合意形成」というプロセスが、現代のまちづくりにおいて、ますます重要視されるようになってきたのです。それは、まちづくりの「主役」が、行政や専門家だけでなく、そこに住む「みんな」であるという考え方が、広く浸透してきた証とも言えるでしょう。


1-4. 都市計画のプロが見る「みんなの声」のチカラ。法律と想いを、どのようにつないでいくのでしょう。

あなたは、都市計画法や建築基準法(けんちくきじゅんほう、建物を建てるときのルールを定めた法律です)といった法律の知識を活かして、安全で機能的な、そして持続可能なまちの成長に貢献したい、という高い志をお持ちのことと思います。それは、まちの「骨組み」をしっかりとつくる、非常に重要で専門性の高いお仕事です。

法律だけでは描ききれない、まちの「ぬくもり」と「個性」。

法律や条例は、まちづくりを進める上での羅針盤であり、守るべき最低限のルールを示してくれます。例えば、「この地域には、これくらいの高さまでの建物しか建ててはいけませんよ」とか、「道路はこれくらいの幅を確保しなければいけませんよ」といった決まり事です。これらを守ることで、まちの安全性や秩序は保たれます。

しかし、どんなに法律にのっとった立派な「骨格」ができあがったとしても、それだけでは、そこに住む人々が心から「このまちが好きだ」「ここに住み続けたい」と感じるような、魅力的なまちは生まれないかもしれません。なぜなら、まちの魅力とは、そこに住む人々の「想い」や「願い」、そして日々の「営み」といった、数値では測れない「ぬくもり」や「個性」によって、大きく左右されるからです。

例えば、法律上は問題なくても、地域の人が大切にしている古い並木道を切ってしまえば、多くの人が心を痛めるでしょう。逆に、住民みんなでアイデアを出し合ってつくった小さな花壇が、まちの景色を彩り、人々の心に潤いを与えることもあります。これこそが「みんなの声」のチカラなのです。

法律と「みんなの声」をつなぐ、大切な架け橋になるために。

都市計画の専門家として、あなたに期待される役割は、法律という客観的なルールと、住民の多様な想いという主観的な願いを、上手につなぎ合わせることではないでしょうか。

実は、都市計画法などの法律の中にも、住民の意見を聴くための手続きが定められています。例えば、都市計画を決定したり変更したりする際には、事前にその案を公表して住民の皆さんに意見を提出する機会を設けたり(都市計画法第17条に基づく案の縦覧・意見書の提出など)、公聴会を開いて直接意見を聴いたりする制度(都市計画法第16条に基づく公聴会の開催など)があります。

これらの法的な手続きは、単に「法律で決まっているからやる」という形式的なものではなく、まさに「みんなの声」をまちづくりに活かすための重要な機会と捉えることができます。住民一人ひとりの小さな声に耳を傾け、専門的な知識と照らし合わせながら、より良い計画へと昇華させていく。そのプロセスを通じて、法律で定められた枠組みの中で、住民の想いを最大限に反映したまちづくりが可能になるのです。

この章でお話ししてきた「みんなで決めること」の重要性や、「合意形成」という考え方は、あなたが専門家として、この大切な「架け橋」の役割を果たしていくための、基本的な心構えであり、具体的な方法論を学ぶ上での大切な入り口となるはずです。法律の知識と、人々の想いを理解する心の両方を持って、地域に根ざした事業展開を目指していきましょう。

次の章からは、この「合意形成」を具体的に進めるための強力なツールである「ワークショップ」について、その秘密や効果を詳しく見ていくことにします。


まとめ

まちの姿はみんなの生活に直結道路、公園、建物など、まちの要素は行政や専門家だけでなく、そこに住む人々の意見を反映することが大切です。
「みんなで決める」メリット良いアイデアが集まる、地域への愛着が育つ、計画がスムーズに進む、といった多くの利点があります。
合意形成とは関係者みんなが納得できる結論を目指す話し合いのプロセスであり、多数決とは異なる質の高い納得感が重要です。
都市計画のプロの役割法律の知識と住民の想いをつなぎ、法的手続きを活かして「みんなの声」を計画に反映させる架け橋となることが期待されます。

第2章 「どうやって決める?」を解決するヒント。魔法の会議「ワークショップ」って、いったい何でしょう。

前回の第1章では、「みんなで話し合って決めること」、つまり「合意形成」が、まちづくりを成功させるためにとても大切だというお話をしましたね。みんなの想いが集まってこそ、本当に愛されるまちが生まれるのでした。

でも、「話し合うのが大事なのは分かったけれど、具体的にどうすれば、たくさんの人の意見を上手にまとめて、みんなが納得できる結論にたどり着けるの?」と、あなたは思っているかもしれません。特に、いろいろな立場や考えを持つ人々が集まれば、意見がまとまらずに困ってしまう場面も、これまでのご経験の中であったのではないでしょうか。市街地再開発プロジェクトなど、多くの関係者の協力が不可欠な事業を担当されているあなたなら、なおさらその難しさを感じているかもしれません。

実は、そんな「どうやって決めるの?」という悩みを解決する、とっても強力なヒントとなる「話し合いの進め方」があります。それが、この章のテーマである「ワークショップ」なんです。なんだか、聞いているだけで新しいアイデアが浮かんできそうな、ワクワクする響きですね。さあ、一緒にその中身をのぞいてみましょう。


2-1. ワークショップって、いったいどんなものでしょうか。みんなで創る、まるでお祭りみたいな会議なんです。

「ワークショップ」という言葉を聞くと、どんなイメージが浮かびますか。もしかしたら、「何かを作る作業場?」とか「専門家が集まる研究会?」なんて思う人もいるかもしれませんね。まちづくりの世界で言う「ワークショップ」は、もう少し意味合いが広くて、参加者みんなが主役になって、自由な雰囲気の中で意見やアイデアを出し合い、一緒に何かを創り上げていく「参加型の会議」や「共同作業の場」のことを指します。

いつもの会議と、どこが違うのでしょうか。

私たちが普段「会議」と聞いて思い浮かべるのは、もしかしたら、少し堅苦しい雰囲気かもしれません。でも、ワークショップは、もっとずっと自由で、活気があって、創造的なんです。

従来の会議のイメージ(かもしれません)・特定の人、例えば上司や専門家が中心になって話を進めることが多い。・分厚い資料を順番に読んでいったり、静かに説明を聞いたりする時間が長い。・「何か意見はありますか?」と聞かれても、なかなか自分の考えを言い出しにくい雰囲気がある。・結論が最初から決まっているように感じてしまうこともある。
ワークショップのイメージ(こんな感じです)・参加者みんなが主役。役職や年齢に関係なく、誰でも気軽に意見を言いやすい雰囲気があります。・時には、絵を描いたり、模型を作ったり、大きな紙にフセンを貼ったりと、手や体を動かしながら考えることもあります。だから、堅苦しくならず、ワイワイガヤガヤと賑やかなことも珍しくありません。・「こんなこと言ったら笑われるかな?」なんて心配は無用。自由な発想や、ちょっとした思いつきが、新しいアイデアを生み出すきっかけになることを大切にします。・みんなで一緒に考え、創り上げていくプロセスそのものを楽しむ、そんな雰囲気があります。

例えるなら、学校の文化祭の準備を思い出してみてください。クラスのみんなで、「どんな出し物をしようか」「看板はどうやって作ろうか」「役割分担はどうしようか」と、ワイワイ話し合いながら、一つの目標に向かって協力して準備を進めますよね。あの時の、みんなで何かを創り上げるワクワク感や、一体感。ワークショップは、あんな雰囲気に少し似ているかもしれません。目的は「楽しい思い出づくり」だけでなく、「より良いまちの未来をみんなで描くこと」ですが、その根底にある「みんなで参加し、共に創る」という精神は共通しているのです。


2-2. ちょっとびっくりするかもしれません。ワークショップのアイデアは、なんと「演劇」の世界から生まれたんです。

この「ワークショップ」というユニークな話し合いの手法、そのルーツをたどると、実は「演劇」の世界に行き着くと言われています。なんだか意外な感じがしますか。でも、演劇とまちづくり、一見すると全く違う分野のようですが、そこには大切な共通点があったのです。

演劇のワークショップって、どんなことをするのでしょうか。

演劇の世界におけるワークショップでは、俳優さんたちが、ただ脚本家や演出家さんの指示通りにセリフを言ったり動いたりするだけではありません。例えば、一つの場面について、登場人物はどんな気持ちでいるのか、どんな動きをしたらその気持ちがもっと伝わるのか、みんなで意見を出し合い、実際に体を動かして試してみたりします。そこでは、次のようなことがとても大切にされます。

みんなで創り上げる素晴らしい舞台は、一人の天才的な脚本家や演出家だけで生まれるわけではありません。俳優、照明、音響、美術など、たくさんのスタッフが、それぞれの専門性を持ち寄り、お互いのアイデアを尊重し合い、一つの作品を「みんなで創り上げる」という意識を共有します。参加者全員の知恵と感性が結集されてこそ、観客の心を揺さぶる感動が生まれるのです。
試行錯誤を大切にする最初から完璧な演技や演出を目指すのではなく、「こうしたらどうだろう?」「あっちの表現の方がいいかもしれない」と、いろいろな可能性を試しながら、より良いものを探求していきます。失敗を恐れずに挑戦し、そこから学びを得て次に活かすという、柔軟な姿勢が求められます。
コミュニケーションを重視する自分の考えを伝えるだけでなく、相手の意見に耳を傾け、理解しようと努める。そんな活発なコミュニケーションを通じて、お互いのイメージをすり合わせ、作品の質を高めていきます。時には意見がぶつかることもあるかもしれませんが、それもより良いものを創るための大切なプロセスと捉えます。

この演劇の考え方が、どうしてまちづくりに役立つのでしょうか。

それは、まちづくりも、まるで一本の壮大なドラマを、そこに住む人々みんなで創り上げていくようなものだからです。誰か一人の専門家が完璧な脚本(都市計画)を書いたとしても、そこに住む人々(俳優であり観客でもある)がその物語に共感し、参加し、愛着を持てなければ、そのまちは本当に輝きません。

「こんな街路樹があったら素敵だな」「子どもたちが安全に遊べる公園が欲しいな」「お年寄りが気軽に集まれる場所があったらいいな」。そういった、住民一人ひとりの想いや願いを、演劇のワークショップのようにみんなで出し合い、試行錯誤しながら、より良いまちの姿を共に描いていく。この「共に創る」というプロセスこそが、人々の納得感を生み、まちへの愛着を育む上で非常に有効だと考えられたのです。だから、演劇の世界で培われたワークショップの手法が、まちづくりの分野にも応用されるようになったのですね。


2-3. 日本のまちづくりとワークショップの出会い。「話し合い」をお手伝いする専門家が登場したんです。

この「ワークショップ」という手法が、日本のまちづくりに本格的に取り入れられ、広まっていった背景には、社会の変化と、先見の明を持った人々の努力がありました。

どうして日本でワークショップという考え方が広まったのでしょうか。

第1章でも少し触れましたが、私たちの社会が物質的に豊かになり、人々の価値観が多様化していく中で、まちづくりに対する考え方も少しずつ変わってきました。

こんな社会の動きが背景にありました。
住民参加への意識の高まり「自分たちのまちは、行政任せにするのではなく、自分たちで考え、良くしていきたい」。そんな主体的な想いを持つ住民が増えてきました。特に、環境問題や福祉問題など、身近な暮らしに関わる課題に対して、当事者として声を上げ、行動する人々が現れ始めたのです。
複雑で解決が難しい社会課題の増加少子高齢化、地域の過疎化、防災対策、中心市街地の活性化など、行政だけ、あるいは一つの専門分野だけでは解決が難しい、複雑に絡み合った問題が増えてきました。これらの問題に取り組むためには、行政、住民、企業、NPO(非営利組織)、専門家など、多様な立場の人々が知恵を出し合い、協力し合う必要性が認識されるようになりました。
行政の役割の変化の兆し従来のような、行政が計画を立てて住民に指示をする「上から下へ」という関係性だけではなく、行政と住民が対等な立場で話し合い、共に課題解決に取り組む「協働(きょうどう)」という考え方が重視されるようになってきました。行政も、住民の意見を政策に反映させることの重要性を認識し始めたのです。

「話し合いの場づくり」が、専門的な技術として認識されるように。

こうした社会の変化を背景に、多様な意見を持つ人々が集まって、建設的な話し合いを進め、合意形成へと導くための専門的な技術やノウハウが求められるようになりました。

そして、日本でも、行政と住民の間、あるいは住民同士の間に入って、中立的な立場から話し合いのプロセスを設計し、スムーズな運営をサポートする専門家やコンサルタント組織が登場し始めたのです。彼らは、ただ会議の司会をするだけでなく、どうすれば参加者が本音で意見を出し合えるか、どうすれば多様な意見を整理し、創造的なアイデアへとつなげられるか、といった「話し合いの場づくり」そのものを専門的な技術として提供し始めました。中には、この「まちづくりの話し合いのコーディネート」をビジネスとして確立し、日本のまちづくりコンサルティングの草分けとなった人々もいます。

これは、まちづくりにおいて「何をつくるか」という「成果」だけでなく、「どのようにつくるか」という「プロセス」そのものに価値が見出されるようになった、ということの表れと言えるでしょう。あなたのような不動産開発のプロジェクトマネージャーにとっても、こうした専門家と連携したり、ワークショップの手法を学んで自身のプロジェクトに取り入れたりすることは、地域住民との良好な関係を築き、事業を円滑に進める上で、大きな力となる可能性がありますね。


2-4. <ちょっと昔話> ワークショップがなかった時代、まちはどうやってつくられていたのでしょうか。

今では、多くの自治体やまちづくりプロジェクトで「ワークショップ」という言葉を耳にするようになりましたが、ほんの数十年前までは、まちの計画は今とは少し違う方法で決められることが一般的でした。ワークショップという手法がどれだけ画期的だったのかを知るために、少しだけ昔のまちづくりの進め方を振り返ってみましょう。

昔のまちづくりの決め方(例えばこんな感じだったかもしれません)

計画を立てるのは誰だった?多くの場合、都市計画の専門家や、行政機関(市役所や国の機関など)の担当者が中心となって、まちの将来像や具体的なプラン、例えば新しい道路の計画や大きな建設計画などを作成していました。そこでは、専門的な知識やデータ、そして効率性が重視されることが多かったようです。
住民にはいつ知らされた?ある程度固まった計画案ができた段階で、説明会などを通じて住民に「こういう計画を考えています」と知らせることが一般的でした。住民が計画の内容を知るのは、かなり後の段階だったことも少なくありませんでした。
住民の意見はどのように扱われた?もちろん、住民が意見を述べる機会が全くなかったわけではありません。例えば、都市計画法にもとづく公聴会(こうちょうかい、計画案について住民などが意見を述べる会)のような制度は以前からありました。しかし、計画の根本的な部分から住民が主体的に関わって意見を反映させる、ということのハードルは、今よりも高かったかもしれません。

もちろん、その進め方にも良い点はあったのですが…

専門的な知見に基づいて効率的に計画を進められたり、大きなプロジェクトをスピーディーに決定できたりする側面もありました。社会全体が急速な経済成長を目指していた時代には、そうしたトップダウン型(上から下へ指示が伝わる形)の意思決定が有効に機能した場面も多くあったでしょう。

しかし、一方でこんな課題も見えてきました。

・計画が、必ずしもそこに住む人々の細かなニーズや地域の実情に合っていないことがある。

・住民にとっては、ある日突然「計画が決まりました」と知らされるような印象を与えてしまい、計画内容への理解や納得感が得られにくいことがある。

・その結果、計画の実施段階になってから、「そんな計画は聞いていない」「私たちの意見は無視された」といった住民からの反対や抵抗が起こり、プロジェクトがスムーズに進まなくなることがある。

こうした経験や反省の積み重ねが、「計画の初期段階からもっと住民の声を聞き、一緒に考えるプロセスが必要なのではないか」「専門家と住民が対等な立場で協力し合う方が、結果的により良いまちづくりにつながるのではないか」という認識を広げていきました。そして、そのための具体的な手法として、この章でご紹介している「ワークショップ」が注目され、日本のまちづくりに取り入れられる大きなきっかけとなったのです。まさに、まちづくりの進め方における、大切な「考え方の転換点」だったと言えるでしょう。


まとめ

ワークショップとは何か参加者みんなが主役となり、自由な雰囲気で意見やアイデアを出し合い、共に何かを創り上げていく「お祭りみたいな、参加型の会議」のことです。従来の堅苦しい会議とは異なり、創造性や楽しさが重視されます。
ワークショップのルーツは演劇にあり「みんなで創り上げる」「試行錯誤を大切にする」「コミュニケーションを重視する」という演劇制作の精神が、多様な人々が協力してまちの未来を描くプロセスに応用されました。
日本におけるワークショップの広がり住民のまちづくりへの参加意識の高まりや、行政だけでは解決できない複雑な社会課題の増加などを背景に、多様な意見をまとめ、合意形成をサポートする専門的な手法として導入され、話し合いの場づくりを専門とするコンサルタントも登場しました。
ワークショップ登場以前のまちづくりとの比較専門家や行政主導のトップダウン型の意思決定が主流だった時代から、住民参加を重視し、計画の初期段階から多様な意見を取り入れるワークショップのような手法へと、まちづくりの進め方が大きく変化してきた歴史があります。

第3章 ワークショップ成功の秘訣!3つの「お約束」と頼れる「助っ人」のお話です。

第2章では、まちづくりにおける話し合いの強力な味方、「ワークショップ」がどんなもので、どんな背景から生まれたのかを見てきましたね。みんなで創るお祭りみたいな会議、そしてそのアイデアが演劇の世界からやってきたなんて、ちょっと驚きだったかもしれません。

さて、いよいよこの章では、「じゃあ、どうすればワークショップをうまく進められるの?」という、みなさんが一番知りたいであろう具体的なコツに迫ります。あなたが不動産開発のプロジェクトマネージャーとして、地域住民の方々や行政など、多様な立場の人々と共にまちづくりを進める上で、このワークショップを効果的に活用できれば、きっと大きな力になるはずです。ワークショップを成功させるためには、実はいくつかの大切な「お約束」と、とっても頼りになる「助っ人」の存在が欠かせません。これらを知っておけば、あなた自身がワークショップを企画したり、参加したりするときに、きっと役立つはずですよ。


3-1. 秘訣その1。アイデアを「見えるようにする」魔法の道具たちです。

ワークショップでは、みんなの頭の中にあるたくさんのアイデアや意見を、まずは外に出して、みんなで見えるようにすることがとても大切です。言葉だけでやり取りしていると、「あれ、さっきあの人はなんて言ったかな?」と忘れてしまったり、話がどんどん違う方向にいってしまったりすることがありますよね。そうならないために、そして、もっとたくさんの意見を引き出すために使われる、まるで魔法みたいな道具があるんですよ。

3-1-1. 大きな紙(模造紙)は、みんなの意見を広げる大きなキャンバス。

ワークショップでよく見かけるのが、壁一面に貼られた大きな白い紙。これは「模造紙(もぞうし)」と呼ばれるもので、まさにみんなの意見を広げるための大きなキャンバスの役割を果たします。話し合いながら出てきた大切な言葉やアイデア、あるいは簡単なイラストなどを、その場でどんどん書き込んでいきます。

どうして大きな紙を使うのでしょうか。それは、話し合いの内容が「記録」として残り、参加者全員がいつでも「確認」できるからです。誰か一人のノートに書かれているだけでは、他の人には見えませんよね。でも、大きな紙に書かれていれば、みんなが同じ情報を見て、「ああ、さっきこんな意見が出たね」「このアイデアとこのアイデアは似ているかもしれない」と、話し合いを深めることができます。また、議論が横道に逸れそうになったときも、「私たちの今日のテーマはこれでしたね」と、大きな紙に書かれたテーマに立ち返ることも容易になります。

例えるなら、大きな画用紙にみんなで一枚の絵を描いていくようなものです。一人ひとりが描いた線や色が集まって、だんだんと全体像が見えてくる。そんなイメージですね。模造紙は、みんなの思考の足跡を共有し、共同作業を助ける大切なツールなのです。

3-1-2. カラフルなフセン(ポストイット)のすごい力。どんな小さな声もキャッチします。

そしてもう一つ、ワークショップで大活躍するのが、カラフルな「フセン(ポストイットなどの貼って剥がせるメモ)」です。参加者一人ひとりに配られ、自分の意見やアイデアを一枚のフセンに一つずつ書いて、それを模造紙などに貼り出していく、という使い方をよくします。

このフセン、実はたくさんのすごい力を持っているんですよ。

どうしてフセンだと、みんな意見を出しやすいのでしょうか。
ちょっぴり安心感があるからフセンに書くときは、必ずしも自分の名前を書かなくても良い場合が多いです。誰が書いた意見か、ということをあまり気にせずに、「こんなこと言ったらどう思われるかな」という心配を少し減らして、より自由な発想で意見を出しやすくなります。特に、大勢の前で発言するのが少し苦手な人にとっては、心強い味方になります。
短い言葉で気軽に書けるからフセンの大きさは限られていますから、長々と文章を書く必要はありません。思いついたキーワードや、短いフレーズで大丈夫。「こうなったらいいな」「こんなことが問題だ」というポイントを、ポンと書き出すだけで参加できるので、話し上手でなくても気軽に自分の考えを表現できます。
たくさんの意見を集めやすいから「一人一枚だけ」というルールはあまりありません。むしろ、「思いつくだけ、どんどん書いてください」と促されることが多いです。そのため、短時間でたくさんの意見やアイデアを集めることができます。まるで、アイデアのシャワーを浴びるような感覚です。
後で動かして整理しやすいからフセンの最大のメリットの一つは、貼ったり剥がしたりして、簡単に移動できることです。集まったたくさんのフセンを眺めながら、「これは似たような意見だね」「このアイデアとこのアイデアを組み合わせたら面白いかも」というように、グループに分けたり、関連付けたり、順番を並べ替えたりすることが簡単にできます。これが、意見を整理し、深めていく上で非常に役立つのです。

例えるなら、七夕の短冊をイメージしてみてください。一人ひとりが願い事を書いた短冊を笹の葉に飾りますよね。フセンも、みんなの小さなアイデアや願いを書いた短冊のようなもの。それがたくさん集まって模造紙という笹の葉を彩り、みんなでそれを眺めながら、まちの未来の姿を一緒に考えていくのです。


3-2. 秘訣その2。頼れる「助っ人」!ファシリテーターって、いったいどんな人なのでしょう。

さて、素晴らしい道具が揃っていても、それだけではワークショップはうまく進みません。たくさんの人が集まって話し合うのですから、時には意見がまとまらなくなったり、一部の人ばかりが話してしまったり、逆に誰も発言しなくなってしまったりすることもあります。そんな時、まるでオーケストラの指揮者のように、全体の調和を取りながら、参加者みんなが気持ちよく、そして効果的に話し合えるようにサポートする、とっても重要な役割を果たす人が必要です。その人のことを「ファシリテーター」と呼びます。

「ファシリテート(facilitate)」という言葉は、「物事を容易にする」とか「円滑に進める、促進する」といった意味の英語から来ています。文字通り、ファシリテーターは、話し合いのプロセスをスムーズにし、参加者みんなの力を最大限に引き出すお手伝いをする専門家なんですね。

3-2-1. ファシリテーターのお仕事は、まるで名探偵みたいに意見を引き出すこと?それとも交通整理?

ファシリテーターは、単に会議の司会進行をするだけの人ではありません。そのお仕事は多岐にわたりますが、一言でいうと「話し合いの舵取り役」であり、「参加者の伴走者」です。

ファシリテーターが、ワークショップ中に心がけていること(ほんの一部をご紹介します)
安全で話しやすい「場」をつくる参加者全員が「ここではどんな意見を言っても大丈夫だ」「自分の考えを馬鹿にされたりしない」と感じられるような、心理的に安全な雰囲気をつくることを最も大切にします。これが、活発な意見交換の土台になります。
参加者全員に気を配るあまり発言していない人に優しく声をかけて意見を促したり、逆に特定の人だけが長く話しすぎないように、さりげなく調整したりします。みんなが公平に参加できるように気を配ります。
問いかけで意見を深める出された意見に対して、「それは具体的にどういうことですか?」「例えば、どんなことがありますか?」「もし〇〇だとしたら、どうなりますか?」といった質問を投げかけることで、意見をより深く掘り下げたり、具体的なアイデアを引き出したりします。
出てきた話を整理し、見える化するたくさんの意見が出てくると、何が論点なのか分からなくなることがあります。ファシリテーターは、出てきた意見を模造紙などに書き出しながら整理したり、「今、私たちはこの点について話し合っていますね」と論点を明確にしたりして、話し合いが迷子にならないように導きます。
時間とプロセスを管理するワークショップは、限られた時間の中で目的を達成する必要があります。ファシリテーターは、全体の時間配分を考えながら、予定通りに話し合いが進むように、また、参加者が集中力を保てるようにペースを調整します。

3-2-2. とっても大切なのは「公平」な立場。自分の意見は言わないって、本当なのでしょうか。

ファシリテーターにとって、最も重要な心構えの一つが「中立性・公平性」を保つことです。つまり、特定の意見に肩入れしたり、自分の個人的な意見を主張したり、参加者の意見を評価したりすることは、原則としてしません。「この意見は良いですね」「それはちょっと違うんじゃないですか」といったジャッジはしないのです。

どうして自分の意見を言わないのでしょうか。それは、ファシリテーターが特定の意見を支持してしまうと、他の参加者が自由に意見を言いにくくなってしまうからです。「ファシリテーターがああ言っているなら、違う意見は出しづらいな」と感じさせてしまったら、多様な意見を引き出すというワークショップの目的が果たせなくなってしまいます。

例えるなら、サッカーの試合の審判を想像してみてください。審判は、どちらのチームの味方でもなく、公平な立場でルールに従って試合を進行させますよね。ファシリテーターもそれと同じで、話し合いのルールを守り、参加者みんなが気持ちよくプレー(発言)できるように環境を整える役割に徹するのです。参加者の意見を引き出し、整理し、深めることに集中し、結論を出すのはあくまで参加者自身である、というスタンスを保ちます。

あなた自身が、例えば社内の会議などでファシリテーターのような役割を担う場面もあるかもしれませんし、地域のワークショップでは外部の専門家がその役を担うこともあるでしょう。いずれにしても、ファシリテーターがどんな役割を果たし、なぜ中立性が重要なのかを理解しておくことは、ワークショップの質を見極め、その効果を最大限に引き出す上で非常に大切です。


3-3. 秘訣その3。みんなが主役!ワークショップを守る大切なお約束(ルール)です。

素晴らしい道具(模造紙やフセン)と、頼れる助っ人(ファシリテーター)がいても、それだけでは十分ではありません。ワークショップを本当に実りあるものにするためには、そこに集う参加者一人ひとりの協力的な姿勢が不可欠です。みんなが気持ちよく、そして建設的に話し合うためには、いくつかのお約束事を共有し、守ることが大切になります。これは、法律のように堅苦しいものではなく、みんなで楽しい時間と有意義な成果を生み出すための、いわば「みんなでつくる良い雰囲気の素」のようなものです。

3-3-1. 「全員参加」でアイデアいっぱい。静かな人も、きっと大丈夫なんです。

ワークショップの大きな目的の一つは、できるだけ多くの人から、多様な意見やアイデアを引き出すことです。だから、「一部の人だけが話していて、他の人は聞いているだけ」という状態は避けたいものです。「全員参加、全員発言」が理想ですが、いきなり「何か意見はありますか?」と聞かれても、特に大勢の前で話すのが得意でない人は、なかなか口を開きにくいかもしれませんね。

だからこそ、先ほど紹介したフセンを使ったり、少人数のグループに分かれて話し合う時間を作ったりと、誰もが何らかの形で自分の考えを表現しやすい工夫が大切になります。そして、参加者自身も、「上手く話そうとしなくていいんだ」「どんな小さなことでも、まずは言ってみよう」という気持ちで、積極的に関わろうとする姿勢が求められます。

例えるなら、クラス全員で合唱コンクールの練習をするようなものです。歌が得意な人もいれば、少し苦手な人もいるかもしれません。でも、一人ひとりが自分のパートを一生懸命歌うことで、素晴らしいハーモニーが生まれますよね。ワークショップも同じで、一人ひとりの小さな声が集まってこそ、より豊かで深みのある結論にたどり着けるのです。

3-3-2. 「否定しない」が合言葉。「いいね!」や「なるほど!」から始めてみませんか。

ワークショップで、もう一つとても大切にされるお約束があります。それは、「他の人の意見を、いきなり否定しない」ということです。誰かが勇気を出して発言したことに対して、「それは違うよ」「そんなの無理だよ」と頭ごなしに否定的な言葉を返してしまうと、その人はもちろん、周りで聞いている他の人も、「こんなこと言ったら否定されるかもしれない」と、意見を言うのをためらってしまいますよね。

だから、ワークショップでは、「どんな意見も、まずは一度受け止めてみよう」という姿勢を大切にします。相手の意見に対して、まずは「なるほど、そういう考え方もあるんですね」「面白いですね」「もう少し詳しく聞かせてもらえますか」といった、肯定的な関心を示す言葉から入ることを心がけます。これを「アクティブリスニング(積極的傾聴)」とも言いますね。

どうして「否定しない」ことが、そんなに大切なのでしょうか。
心理的安全性がぐっと高まるから自分の意見が否定される心配がないとわかると、人は安心して本音を語りやすくなります。「こんなこと言っても大丈夫かな」という不安が減り、より自由で大胆な発想や、普段は言えないような深い悩みなども出てきやすくなるのです。
多様な意見がどんどん出てくるから多数派の意見だけでなく、少数派の意見や、ちょっと変わった斬新なアイデアも、頭ごなしに否定されなければ、安心して表に出せるようになります。実は、そうした少数意見や斬新なアイデアの中にこそ、新しい解決策のヒントが隠されていることも多いのです。
アイデアが育ち、深まっていくから一見すると「え?」と思うような突飛な意見や、未完成なアイデアでも、それを否定せずに受け止めることで、「その意見の面白いところはどこだろう?」「どうすればもっと良くなるだろう?」と、みんなで建設的に考えるきっかけになります。「Aさんの意見は、こういうことですよね。それなら、Bという視点を加えると、もっと面白くなりませんか?」というように、対話を通じてアイデアが育っていくのです。

これらの「お約束」は、例えば都市計画法で定められた住民意見の聴取(公聴会など)といった法的な手続きを、単なる形式的なもので終わらせず、より実質的で有意義なものにするためにも、非常に役立つ考え方です。法律の条文には書かれていなくても、住民の真の声を活かした、より良いまちづくりを目指す上で、こうした話し合いの作法や心構えを大切にしたいですね。


まとめ

見える化の道具模造紙やポストイットといった道具を効果的に使うことで、参加者全員の意見を視覚的に共有し、議論を活性化させ、整理しやすくする工夫が大切です。これにより、多様なアイデアが生まれやすくなります。
ファシリテーターの役割ワークショップの成功には、中立的な立場で話し合いを円滑に進め、参加者全員からバランスよく意見を引き出し、議論を深める手助けをするファシリテーターの存在が不可欠です。彼らは話し合いの「潤滑油」であり「案内人」です。
参加者みんなのお約束「全員参加」の意識を持ち、他者の意見を頭ごなしに「否定しない」という基本的なルールを守ることで、誰もが安心して本音で発言でき、多様な意見が尊重され、創造的な対話が生まれる環境が育まれます。
成功への三位一体効果的な「道具」、専門的なスキルを持つ「ファシリテーター」、そして参加者全員の協力的な「姿勢(お約束の遵守)」。これら3つの要素が揃って初めて、ワークショップはその真価を発揮し、多様な意見を活かした実りある合意形成へとつながっていくのです。
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