株式会社地央

集めて効率、でも格差も?コンパクトシティのメリットとリスクを整理

第1章 なぜ今、コンパクトシティが必要なのか?

現代のまちが抱える課題

日本の多くのまちでは、次のような悩みを抱えています。

課題内容
人口減少住む人が年々減り、空き家や空き地が増えている
高齢化高齢者の割合が増え、近くに病院や買い物場所がないと暮らしにくい
財政のひっ迫道路や上下水道などを維持するコストが大きく、税金だけでは足りなくなってきている

まちはどうして広がってしまったのか

かつては「広い土地にマイホームを持つ」ことが多くの人の夢でした。その結果、郊外に住宅地が広がっていきました。この現象は「スプロール現象」と呼ばれています。

スプロール現象とは、都市計画に沿わず、住宅地や商業地がバラバラに広がってしまうことです。これにより次のような問題が起きています。

暮らしの不便さが増す

病院や学校、スーパーが家から遠くなり、高齢者や子育て世代が移動に困ります。

交通に頼らざるを得ない

車がないと生活できない地域が増え、交通弱者(運転できない人)にとっては大きなハードルになります。

行政コストの増加

水道管や電線、ゴミ収集ルートなどを遠くまで伸ばさなければならず、市町村の支出が膨らみます。

そこで注目されているのが「コンパクトシティ」

これらの問題を解決するために注目されているのが「コンパクトシティ」という考え方です。

コンパクトシティとは、暮らしに必要な施設をコンパクトに集めて配置し、無駄なく効率的なまちの形をつくることを目指す都市政策です。歩いて移動できる範囲に、住まいや医療、買い物施設、公共交通の拠点を集めることで、高齢者にもやさしく、行政コストも抑えられます。

具体的にどう変わるのか

これまでこれから(コンパクトシティ)
郊外に住宅が広がる都市の中心部や交通の拠点に居住を誘導
病院や学校が遠く分散生活機能を集めて近くに配置
車がないと暮らせない公共交通や徒歩での生活が可能に

都市計画法における位置づけ

コンパクトシティの考え方は、国土交通省が推進している「立地適正化計画制度」にもとづいて行われます。この制度は、都市計画法第13条に基づいて市町村が策定する都市計画の基本方針の一部として位置づけられています。

さらに、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)により、中心市街地の活性化に向けた施策が法的に裏づけされています。

例え話でイメージしよう

まちを「お弁当箱」だと考えてみてください。ご飯やおかずがバラバラに詰められていると、お弁当箱はかさばり、持ち運びにくくなります。ですが、ぎゅっと整理して詰めると、小さくても満足感のあるお弁当になります。まちも同じです。必要なものが無秩序に広がるより、ぎゅっとコンパクトにまとまっている方が、住む人にとって便利で快適なのです。

まとめ

問題対策
人口減少、高齢化、行政コスト増生活機能を集約してコンパクトに配置
移動や暮らしの不便さ公共交通や徒歩圏に機能を集中
無秩序な都市の拡散都市計画法に基づき誘導区域を設定

次の章では、この「コンパクトシティ」という仕組みが、都市計画の中でどのように制度化されているのかを、立地適正化計画や誘導区域の視点から詳しく見ていきます。

第2章 コンパクトシティとは?その基本的な考え方

分散した都市から、まとまった都市へ

前の章で見たように、日本の多くのまちは広がりすぎたことで、さまざまな課題を抱えています。そこで生まれたのが、「コンパクトシティ」という新しい都市のかたちです。

コンパクトシティとは、都市機能をひとつのエリアに集めて、効率よく暮らせるまちをつくる考え方です。「住む」「働く」「遊ぶ」「学ぶ」といった生活に必要な機能が、歩いて行ける距離に集まっているまちがその理想です。

たとえるなら「文房具セット」

必要な道具がバラバラに置いてある机と、ひとつにまとめられた文房具セット。どちらが使いやすいかといえば、文房具セットです。鉛筆も消しゴムも定規も一緒にあるので、すぐに手が届きます。まちも同じです。住まいやお店、病院などが近くにまとまっていることで、暮らしがずっと便利になります。

コンパクトにするメリット

考え方目的
生活の利便性を上げる高齢者や子育て世帯が移動に困らない
行政コストを減らす道路や上下水道などを効率的に維持管理できる
環境への負荷を減らす車に頼らず、公共交通や徒歩で生活できる

都市計画法との関係

コンパクトシティの考え方は、単なる理想ではなく、法律に基づいた政策として進められています。具体的には都市計画法第13条で、市町村がまちのあり方を決めるための「都市計画の基本方針」を定められることが規定されています。

この中で重要なのが「立地適正化計画」という仕組みです。これは都市再生特別措置法第81条を根拠とした制度で、生活機能や居住の誘導を促す区域(都市機能誘導区域・居住誘導区域)を市町村が定め、まちをコンパクトに再構築するための道筋を整えます。

立地適正化計画とは

構成要素内容
都市機能誘導区域商業施設や病院など、生活に必要な施設を集める区域
居住誘導区域人が住むことを促す区域。インフラ整備が優先される
届出制度区域外に大規模施設を建てる場合、事前に市町村へ届出が必要

住む・働く・遊ぶが近くにある暮らし

これまでのまちづくりでは、住宅地、商業地、工業地が分かれて配置されることが一般的でした。これは「用途地域」によって定められたものですが、その結果、通勤や通学に時間がかかり、子どもが塾に通うのも車での送り迎えが必要な状態になっていました。

しかし、コンパクトシティでは、

家の近くに商業施設がある
学校や病院が徒歩圏にある
電車やバスの拠点も近くにある

といった環境が整うことで、地域全体がひとつの暮らしやすい「生活圏」としてまとまります。

地方都市における現実的な視点

「集める」といってもすぐにすべてを移すことはできません。実際の計画では次のような視点が必要になります。

段階的な誘導

空き家対策や未利用地の活用を進めながら、機能を徐々に中心部へ集める

住民の理解と協力

生活の変化に対する不安を丁寧に解消しながら進める

民間との連携

民間事業者の投資や企画を呼び込み、持続的な開発につなげる

まとめ

キーワード意味
コンパクトシティ都市機能を集約し、効率的で暮らしやすいまちをつくる考え方
立地適正化計画都市計画法と都市再生特別措置法に基づく区域指定制度
都市機能誘導区域商業・医療・福祉などの施設を集める区域
居住誘導区域住民を誘導するために整備が優先される区域

このように、コンパクトシティは「まちを効率よくまとめる」だけでなく、「暮らしやすくする」ためのまちづくりの手法として、法律や制度に支えられながら全国で広がっています。

第3章 生活利便性を高める配置のコツ

暮らしの便利さは「距離」で決まる

都市の機能をただ集めるだけでは、暮らしやすいまちにはなりません。日常生活の動線、つまり「どれだけ短い距離で用事を済ませられるか」がとても大切です。特に高齢者や子育て中の家庭にとって、徒歩や自転車で移動できる範囲に必要な施設がそろっていることは、安心につながります。

例え話で考えるまちの構造

まちを「文庫本サイズのショッピングモール」にたとえてみましょう。お店がバラバラに散らばっているよりも、ひとまとまりに揃っていれば買い物しやすいはずです。都市も同じです。病院が片道30分、スーパーが反対方向に40分というように分散していては、移動そのものが負担になります。特に、年齢や体力に左右されやすい住民ほど、この「距離」が壁になります。

配置の工夫が求められる対象

対象課題望ましい対応
高齢者移動手段が限られ、買い物や通院が負担徒歩圏内に病院や日用品店を配置する
子育て世帯保育園や学校、病院などが遠いと負担が増える教育・医療・公園などをセットで近くに設ける
交通弱者運転免許を持たない高齢者や学生などバス・電車との連携を強化したエリア設計

具体的な施設配置の考え方

生活利便性を高めるためには、施設同士を点ではなく「面」として捉える視点が欠かせません。都市計画上のゾーニング(用途地域)を見直し、以下のような施設群を連携させて配置します。

医療・福祉施設

診療所、総合病院、福祉センターを核にした医療拠点。連携により救急対応や在宅医療まで視野に入れる。

商業施設

スーパーマーケットやドラッグストアなど、日用品を扱う施設は週に何度も通う場所。高齢者にもアクセスしやすいように、バリアフリー設計やベンチの設置が重要。

教育・子育て支援施設

保育園・小学校と連動した公園や図書館などを近接させることで、送迎や放課後活動の動線を短縮。児童館と医療機関を組み合わせた複合施設も効果的。

交通結節点との連携

駅やバスターミナルを中心に、公共施設・商業施設・住宅を近接させる「トランジット・オリエンテッド・ディベロップメント(TOD)」の考え方を応用。

制度的な裏づけ

こうした配置計画は、単なる設計ではなく法制度にも基づいて実施されます。主な根拠は以下の通りです。

法令・制度根拠条文・概要
都市計画法第8条により、用途地域や地区計画で機能の調整が可能
都市再生特別措置法第81条に基づき、立地適正化計画で生活機能の誘導が可能
高齢社会対策基本法第11条で高齢者にやさしいまちづくりを努力義務として規定

移動距離を短くする視点の重要性

日常生活での「時間のムダ」を減らすことで、自由な時間や余裕が生まれます。これは生活の質そのものの向上につながります。

距離の短縮による効果

分野効果
家計車の燃料代や移動時間の削減
健康徒歩や自転車利用が促進され、運動不足を防げる
地域経済地元商店の利用機会が増え、売上向上や雇用創出につながる

まとめ

視点具体的な取り組み
誰にとって便利かを考える高齢者、子育て世帯、交通弱者の視点を重視する
施設の配置は面で捉える生活拠点に医療・商業・子育てをまとめて配置
距離を短くする徒歩や公共交通で完結する都市構造を設計する
制度を活用する都市計画法、都市再生特別措置法に基づいて計画を策定

まちを構成する「距離」と「機能」のつながりを再設計することが、持続可能で人にやさしいまちづくりの第一歩になります。

第4章 立地適正化計画とは?初心者向けガイド

まちを整えるための「立地適正化計画」

コンパクトシティを実現するには、計画的に都市機能を整理することが不可欠です。そのための制度が「立地適正化計画」です。

この計画は、市町村が主体となり、どこに住居を集中させ、どこに病院や商業施設を置くのかを定めるものです。これにより、住みやすく、維持コストを抑えた効率的なまちづくりが可能になります。

なぜ「立地」を適正化する必要があるのか

問題影響
都市の拡散行政コストが増え、公共サービスが低下
生活圏のバラバラ化買い物や通院が不便になり、高齢者が住みにくくなる
交通の非効率車がないと生活できず、公共交通の維持が困難

立地適正化計画の基本要素

立地適正化計画は、大きく分けて2つの区域を設定します。

都市機能誘導区域

病院、商業施設、役所などの公共施設を集めるエリア。ここに施設を集約することで、人が集まりやすくなり、生活の利便性が向上する。

居住誘導区域

住居を重点的に配置するエリア。水道や道路などのインフラ維持がしやすく、行政コストが抑えられる。

立地適正化計画の法的位置づけ

この計画は、都市再生特別措置法第81条に基づき、市町村が策定することになっています。また、都市計画法の枠組みの中で運用され、土地利用の調整が行われます。

法令内容
都市計画法市街地の整備に関する基本方針を定める
都市再生特別措置法立地適正化計画の策定を義務化

立地適正化計画のメリット

ポイント効果
生活が便利になる必要な施設が近くに集まり、移動負担が減る
財政負担の軽減水道・電気・道路の維持管理がしやすくなる
公共交通の充実利用者が増え、バスや鉄道の運行が安定する

立地適正化計画を成功させるために

住民と行政の協力

住民の理解を得るために説明会を開催し、意見を反映させることが重要。

民間企業との連携

商業施設や医療機関と協力し、適切な場所への誘導を進める。

段階的な導入

一気に変えるのではなく、既存のまちの特性を考慮しながら進める。

まとめ

要点内容
都市機能誘導区域商業・医療施設などを集約するエリア
居住誘導区域住民を重点的に誘導するエリア
市町村の役割計画を策定し、まちづくりの方向性を定める

立地適正化計画は、まちの未来を決める重要な仕組みです。適切な区域設定と住民の理解が、成功のカギとなります。

第5章 実務で役立つ 都市機能の集約手法

都市機能の「集め方」がまちの未来を決める

立地適正化計画で区域を定めたら、次はその中に「何を」「どのように」配置するかが課題です。
都市機能を効果的に集約することで、利便性と居住性が高まり、地域の魅力が向上します。

集約の基本的な考え方

都市機能の集約とは、病院、保育所、スーパー、公園などの生活に必要な施設を、
できるだけ徒歩圏内にまとめて配置することです。

まち全体を「お弁当箱」にたとえると、具材(機能)が偏っているとバランスが悪く食べづらい。
同様に、まちの機能もきれいに詰めることで、暮らしやすさが格段に高まります。

機能別の集約ポイント

分野集約のねらい効果
商業駅前や幹線沿いなどに集める買い物の利便性、通行量の増加による経済活性
医療診療所・薬局・福祉を一体で整備高齢者・家族世帯の安心感、安全な健康管理
子育て保育所、子育て支援施設、公園の近接送迎・育児の負担軽減、子育て世代の定住促進

市街地の再整備と区画整理の活用

都市計画法第21条の「市街地開発事業」は、土地の形や道路を整理し直す手法です。
既存市街地に新たな道や広場を設け、施設の集約がしやすくなります。

区画整理は、

  • 細分化された土地を整理して、整った街区を形成
  • 防災性を高める(避難路や防火帯の確保)
  • 立地適正化計画との整合で誘導区域への施設集中が可能

複合施設の整備で機能をまとめる

近年は、複数の公共機能を1つの建物に集約する「複合施設」が主流です。
たとえば、図書館、子育て支援センター、福祉窓口が一体となった市民サービス施設などです。

1棟に集めることで、土地の節約、維持費の削減、利用者の利便性向上が同時に実現します。

民間活力との連携

企業・NPOと手を組むメリット

都市再生特別措置法第85条では、民間事業者と自治体が共同で整備計画を立てることができます。

分野連携方法具体例
商業民間テナント誘致、再開発ビル運営ショッピングモールの中に保育所や病院を設置
医療医療法人との協定医療モール、在宅診療ネットワークの構築
子育てNPO・地域団体との連携子育て広場や地域子育て支援拠点の設置

連携を進めるうえでのポイント

  • 地域密着型の企業やNPOと早期から協議を行う
  • 事業者の自主性を活かしつつ、都市計画との整合を図る
  • 補助制度や税制優遇(都市再生整備計画事業費補助など)を活用

まとめ

手法実務的なねらい
機能の近接配置日常生活の効率化と高齢者・子育て支援
再整備・区画整理土地の再利用と防災力の強化
複合施設整備行政コストの抑制と利便性の向上
民間との連携資金調達、サービス提供力の強化

都市機能の集約は、一朝一夕には実現できません。しかし、段階的に取り組みを進めることで、まちの将来像が少しずつ具体的な形になります。

第6章 空き家・空き地対策とコンパクト化の関係

空き家・空き地は「まちの穴」か「まちのチャンス」か

全国で急増する空き家と空き地。この現象はまちの景観や安全性に悪影響を与えるだけでなく、都市全体の機能が散漫になる原因にもなっています。そこで注目されているのが、空き家や空き地を都市機能の拠点として再利用し、都市の再構成に役立てるという考え方です。

空き家を「拠点施設」に転換するという視点

空き家は単なる老朽建物ではなく、地域資源として活用することで都市機能の集約に貢献できます。たとえば、以下のような施設への転用が考えられます。

活用例施設内容効果
地域コミュニティ拠点高齢者の集いの場、子どもの学習スペース人の流れを生み、地域交流を促進
福祉・医療施設デイサービス、訪問看護の拠点高齢者の在宅生活を支援
子育て支援施設保育室、子育て広場若年層の定住促進、地域の魅力向上

用途変更による柔軟な活用

空き家の再利用では、既存の建物を別の用途に転換する「用途変更」が必要になる場合があります。建築基準法第87条により、既存不適格建築物であっても所定の条件を満たせば新しい用途での使用が可能となります。

活用に向けた工夫のポイント

  • 住居誘導区域内にある空き家から優先的に利活用を検討
  • リノベーション時にはバリアフリー化や省エネ化も視野に入れる
  • まちづくり協議会や自治体の補助制度と連携

居住誘導と周辺エリアの調整

空き家単体での活用だけではなく、周辺エリア全体での「居住誘導」にも目を向ける必要があります。これは立地適正化計画とも深く関係し、住居誘導区域に人を集めることで、サービスの効率提供が可能になります。

地権者との合意形成の課題

空き家の活用では、所有者や相続人との調整が欠かせません。特に相続登記が未了の土地建物では、利用許可を得るだけでも時間と労力がかかります。

注意すべきポイント

  • 2024年から相続登記の義務化(不動産登記法第76条)により、所有者把握が進むと期待される
  • 共有名義物件では全員の同意が必要
  • 合意形成に向けて行政や専門家の支援体制を整備

空き家対策特別措置法の活用

「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成27年施行)により、自治体は放置空き家に対して勧告・命令・行政代執行などの措置を取ることができます。ただし、強制措置の前に地域との合意形成と再利用の道筋を探ることが重要です。

まとめ

対策目的と効果
空き家を拠点化地域機能の再配置、交流人口の創出
用途変更既存資源の活用とコスト抑制
相続・権利関係の調整利活用の前提づくりと法的安定性の確保

空き家や空き地の活用は、コンパクトシティの実現に欠かせないピースのひとつです。課題を丁寧に解きほぐし、行政・住民・民間の連携で一つひとつ解決していくことが、持続可能なまちづくりへの道となります。

第7章 コンパクトシティのメリットとリスク

コンパクト化がもたらす利点

財政負担の軽減

コンパクトシティは、都市機能を中心部に集約することで、インフラや公共サービスの維持コストを抑えることができる。たとえば、広範囲に点在するバス路線や上下水道設備を整備し続けるのは財政的に大きな負担となるが、集約すれば路線や設備の総延長が短くなり、管理費や修繕費の削減につながる。

移動効率の向上

通勤や通学、買い物など、日常の移動時間が短くなり、生活の質が向上する。これは、医療や教育、福祉、商業といった都市機能が徒歩圏内にまとまることで実現される。特に高齢者や子育て世代にとって、移動の負担が軽減されることは大きなメリットとなる。

環境負荷の低減

移動距離の短縮は自動車依存の軽減にもつながり、二酸化炭素排出量の削減効果が期待できる。持続可能な都市運営において、脱炭素の推進は国際的な目標とも一致しており、コンパクトシティはその有効な手段の一つである。

懸念されるリスクと課題

地域間の格差拡大

中心市街地への集約が進むと、周辺地域との間に利便性や資源配分の差が生まれることがある。これにより、過疎地域の衰退が加速し、地域格差が拡大する恐れがある。

住民の合意形成が難航

居住地や事業所の移転、用途地域の見直しなど、計画にはさまざまな調整が必要となる。特に長年その地に暮らしてきた高齢住民にとって、生活拠点の移動は心理的負担が大きく、合意形成には丁寧な説明と段階的な実施が不可欠である。

地価変動による影響

中心市街地では需要の集中により地価が上昇し、一方で周辺部は資産価値が下落するケースもある。これは税収の偏りや、資産保有者の不満につながるリスクがある。

段階的な導入の重要性

これらのリスクを避けるためには、拠点エリアの明確化と、段階的な都市機能の誘導が求められる。都市計画法第34条第14号による「居住誘導区域の設定」など、法的根拠に基づく整合性ある都市誘導が必要となる。

ポイント

メリットコスト削減、移動時間の短縮、環境負荷の低減
リスク地域格差、住民反発、地価変動
対処法段階的な導入、丁寧な合意形成、制度の活用

まとめ

コンパクトシティは、人口減少社会における持続可能な都市の形として注目されているが、その実現には利点と課題を両面から理解し、慎重に計画を進めることが求められる。まちづくりは単なる構造改革ではなく、住民と地域の未来を共に考える対話のプロセスである。だからこそ、「効率」だけではなく「納得」が不可欠となる。

第8章 成功事例から学ぶ 地方都市の実践知

交通と都市機能が融合したまちづくりの鍵

コンパクトシティの理念を実現したいなら、机上の理想論ではなく、現場で培われた知恵に学ぶことが重要です。実際に成功している自治体は、交通ネットワークと都市機能をうまく組み合わせ、持続可能な都市構造を実現しています。

富山市 LRTと都市機能の再編

都市が直面していた課題

  • 自動車依存の生活様式が進み、公共交通の利用が減少
  • 高齢者の移動困難と中心市街地の空洞化

取り組みの柱

  • LRT(次世代型路面電車)を中⼼部に整備し、鉄道とバスとの結節点を強化
  • 沿線に公共施設や医療・福祉施設、集合住宅を配置して、移動距離を最小化
  • 「公共交通を中心としたまちづくり条例」(2009年施行)により法的な裏付けを確保

得られた成果

  • 高齢者を中心に公共交通の利用が回復し、LRT沿線の居住率が上昇
  • 住宅取得補助や移住支援が地域内定住を後押し
  • 国土交通省の都市再生整備計画事業にも活用され、国の補助を有効に取り込んだ

長岡市 住まいと支援施設を中心とした再構築

地域特性と課題

  • 郊外化の進行による空き家と空き地の急増
  • 若年世帯の転出による地域コミュニティの希薄化

施策の工夫

  • 「住居誘導区域」を定め、コンパクトゾーン内への移住促進
  • 子育て世帯向けの「まちなか子育て支援拠点」の整備
  • 地区計画制度を用いて建物用途や敷地の形態を柔軟に調整

得られた効果

  • 住宅の密度が高まり、医療・教育施設へのアクセスが改善
  • 空き家を改修した保育施設や福祉拠点が地域に活力を与えた
  • 地域住民との協働により、強い合意形成とまちの一体感を確保

共通点から見えてくる成功の条件

比較軸富山市長岡市
交通施策LRTの整備と駅前集約徒歩・自転車移動を前提にした施設配置
都市計画ツール都市再生整備計画、立地適正化計画地区計画、住宅取得支援制度
民間・住民との連携沿線開発における民間企業の活用住民との合意形成による用途変更

まとめ

両市に共通するのは「交通」と「都市機能」の戦略的な融合です。どちらも地元の暮らし方や地理的特性を読み解き、その都市に合った集約と再編のかたちを模索してきました。制度を活かすだけでなく、住民の理解と協力を得ることで都市再生が現実のものとなります。

都市計画法第81条や地区計画制度(同法第12条の4〜7)、立地適正化計画(都市再生特別措置法第81条の2)など、法令との整合を図りながら、地域資源を生かす運用が成功のカギです。再開発を担う立場であれば、制度と現場のバランス感覚が求められます。

第9章 これからのまちづくりに必要な視点

まちづくりにおける総合連携の重要性

都市づくりは、これまで都市計画法や建築基準法など、都市構造に関する法律を中心に進められてきました。しかし近年は、人口減少や高齢化、気候変動、子育て支援など、都市だけで完結できない社会課題が増え、まちづくりもより包括的な視点が求められるようになっています。

福祉や教育、環境政策と連動し、暮らしやすさの質を高めることが、持続可能な都市を実現するための基本となります。

都市計画と他分野政策の融合が鍵

関連する制度や法令

都市計画法用途地域(第9条)、地区計画(第12条、第13条)により土地利用を誘導
環境基本法・地球温暖化対策推進法低炭素社会の形成を促進するまちづくり
子ども・子育て支援法子育てしやすい住環境を整備するための支援制度
地域福祉計画高齢者・障害者が安心して暮らせる福祉施策の一環

具体的な統合のアプローチ

  • 保育園や福祉施設をまちなかの公共交通拠点近くに集約
  • 教育施設と住宅ゾーンを近接配置し、通学や送迎の負担を軽減
  • ヒートアイランド対策や防災機能を兼ねた緑地整備

不動産業者は「仕掛ける側」へ

従来の不動産業は、用地仕入れや販売といった受動的な業務が中心でした。しかし今後は、まちの将来像を描き、そのビジョンに基づいて都市機能を企画・誘導していく能動的な役割が期待されています。

たとえば、空きビルのリノベーションを通じて新たな福祉拠点を提案したり、デベロッパーと連携して教育・商業施設を内包する複合施設を都市核に整備するなど、まちづくりの設計段階から関与する姿勢が重要です。

実務で考えるべきステップ

  • 地域の人口構造や将来推計データを踏まえたニーズの把握
  • 既存建物やインフラの活用可能性の検討
  • 民間企業や行政、地域住民との事業スキームの構築

まちづくりは「つくる」から「育てる」へ

これまでの都市開発は、インフラを整備し、建物を建てて終わりという「作ること」が主目的でした。しかし今後は、出来上がったまちをいかに育て、維持し、改善し続けるかという「育てる視点」が不可欠になります。

育てるために必要な仕組み

  • エリアマネジメントによる継続的な地域運営
  • 住民参加型ワークショップによる合意形成とまちへの愛着形成
  • 都市計画マスタープランや立地適正化計画の柔軟な見直し

まとめ

都市計画はもはや単独の分野ではなく、福祉や教育、環境、防災といった多分野と連動しながら、総合的に展開されるべき時代に入っています。不動産事業者もその一翼を担い、まちの未来像を描く当事者となることで、真に持続可能な地域社会を支える力となります。

まちづくりは「完成」ではなく「継続」の思想です。地域が時間をかけて成熟し、変化に対応していけるよう、育てていく意識を持つことが今後の都市戦略において不可欠です。

NOTE

業務ノート

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